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名古屋高等裁判所 昭和34年(ラ)11号 決定

抗告人 若尾なみ子

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙に記載するとおりである。

よつて、右抗告理由の当否について考える。

記録によれば、抗告人が最初原裁判所に提出した再抗告状には、抗告理由の記載がなく、昭和三十三年十月十六日原裁判所書記官より再抗告受理通知書の送達を受けたにかかわらず、同年十二月四日に至つて、再抗告理由書を提出したことが明らかである。従つて、抗告人は、民事訴訟規則第六十一条所定の再抗告受理通知書送達の日より十四日の期間内に、再抗告理由書を提出せず、右期間経過後に、これを提出したものといわねばならない。

もつとも、民事訴訟規則第六十一条に規定する再抗告理由書の提出期間については特にこれを不変期間とする規定は存しないけれども、これを徒過することにより、上訴の申立が却下せられ、上訴権を失わしめる結果となるのであるから、不変期間に準ずる法定期間と解するのが相当である。従つて、天災その他避くべからざる事変等当事者の責に帰すべからざる事由により、右期間を遵守しえなかつた場合においては、不変期間の不遵守に関する民事訴訟法第百五十九条を類推適用し、懈怠した訴訟行為を追完することができるものと云うべく、この点、抗告人所論のとおりである。

ところで、当裁判所の照会に対する原裁判所の調査回答書によれば、原裁判所書記官は、抗告人に対し再抗告受理通知書を発する際従来の慣例にしたがい、再抗告理由書提出に関する注意事項を記載した注意書を添附すべきところ、誤つて、上告受理通知書を発する際に添附すべき上告理由書に関する注意書を添えて送達したことが認められ、右の事実より推察すると、抗告人は、右上告理由書に関する注意書に記載された五十日の提出期間を、そのまま再抗告理由書の提出期間に適用あるものと誤信して、その趣旨に従い前示のように、再抗告受理通知書送達の日より五十日の期間内たる昭和三十三年十二月四日に、本件再抗告理由書を提出したものであることが窺われる。

しかしながら、抗告人に送達せられた右注意書は、その記載内容の上から見て明らかな如く、上告受理事件のそれであつて、再抗告受理事件に関するものでなく、それには再抗告受理事件にそのまま当てはまらない注意事項も記載せられているのであり、再抗告理由書提出期間のごときは、法規を調査し、あるいは裁判所に問合わせるなどすれば、容易にこれを了知しうるところであるから、原裁判所書記官が注意書を取り違えて発送した過失もさることながら、右注意書の記載に盲従し、理由書の提出期間に特に考慮を払わず、期間を徒過してしまつた抗告人にも、全く責任がないとは云えない。従つて、抗告人は、原裁判所よりの通知書に前述のごとき注意書が添附せられていたことをもつて、直ちに、抗告人の責に帰すべからざる事由により、再抗告理由書提出の期間を遵守しえなかつたものとすることはできない。とすれば、抗告人は、前述の懈怠した再抗告理由書の提出を追完しえないというべく、この点に関する抗告人の主張は、理由がないといわねばならない。

よつて、原裁判所が民事訴訟法第四百十四条、第三百九十九条第一項第二号、第三百九十八条、民事訴訟規則第六十一条により抗告人の再抗告を却下した原決定は、結局相当であつて、他に原決定を違法とすべき瑕疵もないから、抗告人の本件抗告を棄却することとし、抗告費用の負担について民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用し、主文のように決定する。

(裁判長裁判官 山口正夫 裁判官 奥村義雄 裁判官 吉田誠吾)

抗告の趣旨及び理由

抗告の趣旨

原判定を取消し、更に妥当な御裁判を求める。

抗告の理由

一、申立人は、名古屋地方裁判所昭和三三年(ソ)第八号建物収去命令の決定に対する即時抗告事件の決定に対し再抗告を申立て、その申立は適法に同庁に受理され同庁民事部(係書記官坪井大氏)より同年十月十四日付の再抗告受理通知書が抗告人に宛てて郵送され、同月十六日に送達されたが、その際右受理通知書と共に右同庁作成に係る上告理由書に関する注意書が同封で送達されたところ、同注意書記載文言によれば「この通知書を受け取つた日から五十日以内に上告理由書(本件については特に再抗告理由書と解続すべきもの)を当裁判所に差出して下さい」とあつた。

二、そこで民事訴訟法は勿論、民事訴訟規則第六一条など全然知らない抗告人は慎重正確を最も尊重する裁判所から正式に発せられた信ずべき右書面の趣旨に従い右五十日以内の十二月四日に右再抗告理由書を提出した次第である。

三、原決定は抗告人が再抗告受理通知書送達の日から十四日の期間内に再抗告理由書を提出しなかつたとの理由で右再抗告を却下したのであるが、抗告人の同期間不遵守は全く前述のとおり再抗告裁判所の重大な過失に因るのであるから抗告人の責に帰すべからざる事由に因るものといわねならない。而して抗告人は右注意書に「再抗告理由書は五十日以内に差出すこと」の旨記載されているに拘らず法令により「十四日以内に差出すべきである」旨を認識し得たのは全く右再抗告を却下する決定の送達を受けたときなのであるから、民事訴訟法第百五十九条に謂わゆる「当事者の責に帰すべからざる事由の止みたるとき」が之に一致するものといわなければならない。従つて抗告人はこのときより更に一週間内に再抗告理由書を追完し得るものであることは右条文に明記するものであるところ、抗告人は前記のとおり右に先だち昭和三三年十二月四日付で右再抗告理由書を提出しているから、結局抗告人は同理由書提出期間不遵守の効果を受けるべきではない。

四、上叙の次第であるから、原決定が抗告人が再抗告理由書提出期間内に同理由書を提出しなかつたことを理由に何等特殊の事情の存しない場合と同様に右再抗告を却下したことは著しく正義に反する結果を生むものであつて、到底承服し得ないので、この抗告に及んだ次第である。

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